消費者契約法
前回、介護付有料老人ホームの入居契約書に、「終身利用権金」は返還しない、「入居一時金」は入居契約締結日から一定の期間で月割り均等償却する、との条項が記載されていた場合、その条項が消費者契約法に違反し無効であるか否かが争われた裁判例を紹介しました。これ以外にも、入学辞退者の学納金(授業料及び入学金)、建物賃貸借契約の更新料及び原状回復費用等について、消費者契約法に違反するか否かが裁判で争われました。結論から言えば、学納金のうち授業料については、最高裁判所が、消費者契約法を適用して、「授業料は3月31日までに入学を辞退した場合には原則として大学は返還する義務を負う。」、学納金のうち入学金については、消費者契約法の適用を否定して、「入学金は、学生が当該大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性質を有するものである。学生は、入学金の納付をもって大学に入学し得る地位を取得するものであるから、その後に在学契約が解除され、あるいは失効しても、大学はその返還義務を負わない。」と判示し、決着がついております。前回、紹介した「終身利用権金」についての東京地方裁判所の判決は、この最高裁判所判例に沿ったものです。建物賃貸借契約の更新料及び原状回復費用については、大多数の下級審判例(大阪高等裁判所の判決はマスコミでも大きく取り上げられました)は、消費者契約法を適用し、無効と判断しております。
このように、消費者(一般人)を契約の相手方とする場合には、契約書の各条項が消費者契約法に違反して無効となるか否かは重要な問題ですので、本稿では、消費者契約法についての基礎的事項を解説します。
① 消費者契約法は、「事業者」と「消費者」との間で締結される契約に適用されます(同法2条)。「事業者」とは、「法人その他の団体及び事業としてまたは事業のために契約の当事者となる場合における個人」と定義され、「個人」とは、「個人(事業としてまたは事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く)」と定義されております(同法2条)。つまり、法人は全て「事業者」であり、個人でも、例えば、個人として高齢者円滑入居住宅事業を行うものは「事業者」です。そして、当然のことながら、「事業者」と「事業者」との間の契約には、消費者契約法の適用はありません。
② 契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項が、解除によって、事業者に生ずべき平均的な損害を超える場合には、その超える部分は無効です(同法9条1号)。遅延損害金については、年14.6%を超える部分については無効です(同法9条2号)。
③ 特に注意が必要なのは、同法10条です。この規定は、契約条項が、法律の規定よりも消費者の権利を制限し、又は義務を加重するような内容で、それが当事者間の信義則(民法1条2項)に反し、消費者に一方的に不利である場合に、その条項を全部無効とするものです。消費者は、ほとんどの場合、この規定を根拠として、当該条項の無効を主張してくるものと思われます。ただ、この規定は、非常に漠然としておりますので、多くの過去の判例、各種ガイドライン等を熟知したうえでなければ判断は容易ではないでしょう。
④ 消費者契約法は一部改正され、改正法は平成19年6月7日から施行されましたが、この改正法の中で、一定の要件を満たし、内閣総理大臣が認定した消費者団体(適格消費者団体)は、ある特定の行為を行う事業者に対して、当該行為の差止め請求することができると規定されました(同法12条以下)。これによって、それまでは、原則として契約当事者である消費者個人だけにしか法的手続が認められなかったのが、その消費者個人に代わって、消費者団体が事業者に対して一定の法的措置を講ずることが可能になりました。この結果、消費者個人の場合、手続が面倒、費用がかかるといった等の理由で、法的手続を取ることに躊躇していたのが、消費者団体では、そのような障害がないので、差止め請求等が提起されやすくなると予想されます。